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政治情勢が混乱させるレバノン難民キャンプの教育

レバノンの首都ベイルート南部にあるシャティラ難民キャンプや、その近くにあるサブラ難民キャンプ(両方とも1982年のパレスチナ難民虐殺事件の舞台となった場所)、さらに南部シドン郊外にある同国最大のアイン・エルヒルウェ難民キャンプを見渡しても、図書館が1軒もない。しかも、レバノンの外務大臣による先般の発言を受けて、こうした難民キャンプで暮らしている数千人におよぶシリア難民の子どもたちが読み書きを学ぶ機会さえ、さらに制限されるのではないかと懸念する声がでてきている。

Gebran Bassil/ The Gulf Intelligence国際連合は先月初め、2011年に始まるシリアからの大規模な難民の流入によって、今年末までにはシリア難民がレバノンの人口の3分の1を超える勢いであり、少なくとも30万人の子どもが学校に通えずにいる、と発表した。

7月初め、レバノンのゲブラン・バジル外相が、「食料であれ住居であれ医療であれ、シリア難民を支援すべきではない。なぜならそうした支援が、彼らのレバノン残留を促すからだ。私たちが望むのは彼らがレバノンを早急に退去することである。」と発言した

バジル氏は、かつて前政権でエネルギー水資源相だった時代に、「シリア人はレバノンの安全や経済、アイデンティティへの脅威とみなされるべきだ。」と語っていた人物である。

絡んだ電線が危険なほど低く垂れ下がり、パレスチナ人の「抵抗(レジスタンス)」指導者や殉教者らのポスターに混じってバシャール・アサド大統領のポスターが目立つシャティラやサブラのパレスチナ人難民キャンプは、レバノンの首都ベイルート南部に設けられたものである。そしてシリア難民は、いずれの難民キャンプにおいても当初は歓迎されたという。

レバノン政府は、パレスチナ解放機構(PLO)に国内に12か所あるパレスチナ人難民キャンプの自治的な管理を認めた1969年のカイロ協定から脱退しているものの、今でもレバノンの治安部隊は難民キャンプへは立ち入らない。

Mona Alami/IPSシャティラ難民キャンプでIPSの取材に応じた数名のシリア難民は、「ここはヒズボラの支配下にある地域よりましです。」と語った。ヒズボラは、シリアのアサド政権側について内戦に参画しているほか、その政治部門はレバノン政府の一翼を担っている。

1949年にパレスチナ難民のために設置されたこの難民キャンプでは、シリア内戦が勃発して以来、1~2万人の難民がシリアから流込しており、今ではシリア人難民の数が元々いたパレスチナ人難民の数を上回っている。

軽量ブロックで作られた粗末な建物がひしめき合う難民キャンプには、国境を越えてシリアから逃れてきた多数の学齢期の子どもたちが暮らしているが、こうした子どもたちの多くが、精神障害や栄養失調を患っており、レバノンの教育施設への編入の可能性も制限されている。

難民キャンプ内で活動を展開しているNGO「バスメ&ザイトゥーネ」のシリア人創設者兼事務長のファディ・ハリッソ氏によると、レバノンの公立学校の収容能力に限界がある問題に加えて、難民の子どもたちにとって最も明白な障害になっているのは、シリアでは学校教育でアラビア語が使われるのに対して、レバノンではフランス語か英語が使われている点だという。

また、両親と行き別れて戦災孤児となり、生きていくために労働や物乞を余儀なくされる極貧環境の問題や、戦争を起因とするトラウマの問題など、子どもたちの就学を妨げる複雑な要因が明らかになってきている。さらに慢性的な食糧不足がこうした状況をさらに複雑にしている。

UNICEF国際連合児童基金(UNICEF)は、今年2月25日に発表したレバノン在住のシリア難民の子どもの健康状態を調査した報告書の中で、2012年から2013年の間に北レバノンベッカー県では重度の栄養失調児の数が2倍になっていると指摘した。また、緊急に治療措置が施されなければ、約2000人の5歳未満の子どもたちが命を落とす危険な状態に直面していると警告している。また同報告書は、より軽度の栄養失調の場合でも、子どもたちの心身の発達が阻害されている、と指摘した。

「バスメ&ザイトゥーネ」は、シャティラ難民キャンプに300人規模の学校を作り、レバノンのカリキュラムに従って、シリア人とパレスチナ人の先生が教えている。ハリッソ氏によると、ここでの教師の月給は400~700ドルだが、「この給料レベルで働くレバノン人はいない。」という。この学校は「国境のない医師団」(MSF)の診療所と薬剤所が2階に入っている最近改修されたビルに位置している。

また「バスメ&ザイトゥーネ」は、難民の子どもたちが気軽に立ち寄って読書をしたり、参考文献の相談をしたり、コンピューターを使用できるような、発電機を備えた小さな図書館を建設しようと、資金集めに奔走している。

Envolverdeハリッソ氏の同僚であるマリア・ミンカラ氏は、IPSの取材に対して、「混雑した難民キャンプの中を歩けばすぐに気づくことですが、多くの子どもたちが、電気が通っていない暗くて不健康な環境の中で生きることを余儀なくされています。子どもたちには物理的に勉強できるスペースがないのです。」と指摘したうえで、「数万人もの難民が住んでいるこの地域に現在は1軒の図書館もありませんが、この構想が実現すれば、パレスチナ人とシリア人双方の学齢期の子どもたちに開かれた施設にしたいです。」と語った。

レバノンの難民キャンプで教育支援活動を行っている「社会サービスのための合同キリスト教徒委員会」のハダッド専務は、「私たちは最近、約120人のシリア難民の子どもたちに本国で試験(中学三年時試験と学士試験)を受けさせるために、シドン近郊のアイン・エルヒルウェ難民キャンプを離れて、子どもたちを一時的にダマスカスに帰還させる許可をレバノン当局から得ることに成功しました。結果として、そのうち83%の子どもたちが合格しました。」と語った。

さらにハダッド専務は、「その際、アサド体制への恐怖から子どもをシリアに戻さなかった親もいましたが、彼らは今ではその決断を後悔しています。」と付け加えた。

またハダド代表は、難民の子どもたちへの教育内容に政治と宗教関連の内容は含まれていないと強調したうえで、同団体が採用しているカリキュラムに関する質問に答える担当として同難民キャンプ住人のアブ・ハッサン氏(パレスチナ民兵がよく使う「アブ(~の父親)」で始まる偽名)を紹介してくれた。

アブ・ハッサン氏は、過去にパレスチナの「レジスタンス」勢力で戦ったことがあると打ち明けたが、どの派閥に属していたかについては言及を避けた。そして教科書の内容については、政権を支持するような(政治的な)表記はないと明言した。

Amnesty Internationalアブ・ハッサン氏は、ダマスカスまで生徒に随行してから再び難民キャンプに戻ることが許可された。しかしレバノンにおける最近の法改正によって、シリアを逃れようとするパレスチナ人がレバノンに入国するのが以前より困難になっている。人権擁護団体アムネスティー・インターナショナルは、先週発表した報告書の中で、入国条件としてレバノン政府からの事前の入国許可や在留許可の取得を新たに義務付けた規制措置を非難している

また、シリア難民に関する法律も6月初頭に変更され、シリア国内のレバノン国境付近で戦闘状態が続いている地域からのレバノンへの入国が制限されるとともに、レバノンを離れてシリアに帰国した人々はレバノンへの再入国の権利を喪失する旨が明記された。(原文へ

翻訳=IPS Japan